べっさんのニュージーランド自転車旅行記

ニュージーランド走ってきました

DAY 30「坂の上の景色」

3/22  DAY 30  around Molesworth Station

 昨晩はよく眠れなかった。テントの張り方を少々ミスったようで、寝ているうちに下の方にずり落ちていく。何度も上の方に這い上がっているうちに朝になった。5時過ぎに仕方なく起きてしまい、CountdownのちぎりパンにNutella(ヌテラ)を塗りたくって食べる。食料はたくさん買ったつもりであったが、今思うと4日を乗り切るにはちょっと足りない感じがする。空腹を我慢して食べる量を減らすしかない。そんなことを考え、飯を食い、準備をするのだがやっぱり眠たい。寝っ転がっているうちに眠り込んでしまったようだ。目が覚めると8時。2時間ほど寝ていたようだ。れっきとした2度寝だが、おかげですっきりした。

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見慣れない植物も

 今日もラジオ体操をしてから出発。昨日に比べて道がやや本格的になってきた。gravel roadのくせに、カーブには一人前に傾斜がついているから、若干外向きに車体を向けながらドリフトするように進まないと滑ってこけてしまう。数kmも行くと、両側の山が迫ってきて、台地部分が少なくなってきた。結果、ブドウ畑はなくなり、急斜面の牧草地に景色が変わった。それもかなり数が減ってきている。今日は朝から曇り空で、山々の頂上付近をどんよりとした雲が覆いかぶさっている。川は豊かな水量をもち、きれいな水色と、耳に心地よいせせらぎを奏でている。ただ、道は容赦なく崖の上と下と行ったり来たりと激しい。崖の上では少し道をそれると50m真っ逆さまに落ちてしまうので気が抜けない。そんな過酷な道を平均時速8kmという非常に遅いペースで進んでいく。車は30分に1台通る程度なので、楽である。途中でバスを改造したキャンピングカーの夫婦に出会った。彼らはリンゴを1つくれた。ありがたくもらう。

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川の浸食で谷が形成されている

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足を踏み外せば真っ逆さまである

 25kmこいだ時にはもうすでに1時。支流の谷にかかる、足のすくむようなつり橋を渡った先に開けたところがあったので、そこで飯を食う。と、そこへキャンピングカーが1台やってきて、中の老夫婦がお茶でも飲むか、と誘ってくれた。飯を食ったらすぐ行く、と答え、ラーメンをかきこむ。キャンピングカーの前にアウトドアチェアを置いて、お茶とクッキーをいただき、この先の道の状況などを聞く。夫婦は今日Molesworthから来たらしいが、そこは驚くほど寒く、霜が降りかけていたという。また、Molesworth周辺はここら辺のgravel roadとは異なり、もっとごつごつしているから気を付けた方がいいという話もしてくれた。どうやら、ここからさらに過酷な旅になりそうである。まあ、でも車が通れるほどだから大丈夫だろう。Rimutaka Cycle Trailでの経験は僕に変な自信を与えているのだ。

 他にもいろいろな話をした後、別れ際にginger biscuits(ジンジャービスケット)を1袋もらい、再出発。道に少し変化が現れたのは35kmすぎだった。だんだんと川沿いから離れていったかと思えば、目の前に現れたのはざっと1kmはあろうかという長い長い、直線の激坂。その勾配は30%を優に超えている。しかもその先の道まで曲がりくねって登っている様子が見えているのだ。思わず、自転車を降り、立ち尽くす。心の準備をするのに5分ほどかかった。腹をくくって登り始める。雲は一つ残らずどこかに消え、ぎらぎらとした太陽が背中を照り付ける。それでもこの1か月毎日自転車に乗っていただけのことはある。何とか直線部分を登り切った。が、いまだ勾配はきついままなので休むことはできない。(59) そのまま2、3kmの登りを耐え、比較的勾配の緩いところでようやく休憩。ふと、後ろを振り返ると、そこには素晴らしい眺めが広がっていた。いままで、谷を取り囲む山のおかげでその存在さえも忘れていたKaikoura Range(カイクラ山脈)のギザギザとした、背の高い灰色の山々が姿を現したのだ。それらは雲を突き堂々とそびえたっている。ふと見下ろすとつい先ほど休憩していた場所のポプラの木が豆粒のように見え、そこから自分のいるところまでの道が美しい曲線をもってつながっている。この景色を目にした時、僕ははじめてこの道を来てよかったと心から思ったのだった。

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リンゴをいただいた

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坂を前に一休み

 さあ、感動ばかりもしていられない。今日も50km進まなければならないのだ。のこりの坂道を、力を振り絞って登る。その後も、ロングスパンのアップダウンを繰り返し、走行距離が50kmちょうどになったところで、Awatere River(アワテレ川)のほとりの道路脇にテントを張り、川で水浴びをする。誰もいないのをいいことに素っ裸になるも、昨日の沢よりはましだが全身をつけるのは勇気がいるほどには冷たい。十分に体を洗い、川辺で飯を食う。sandflyは相変わらず多いが、歩きながら食べるという究極の方法で対処する。

 夜になると、ここのあたりは民家も何もないのでライトを消すと漆黒の闇に包まれる。目を開けているのか閉じているのかもわからない。おやすみ。

   走行距離: 50km 計: 1630km

 

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坂を上り切った時の風景

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ニュージーランドらしい光景。牧羊犬が群れをまとめる様子は素晴らしかった

脚注

(59)坂道での再発進:坂道で停車し、再び出発するには素早くクリートキャッチ(ペダルとシューズを固定する機構をつなぐ)を行う必要がある。これは勾配が厳しくなるほど難しく、ましてやgravel roadともなると、ほぼ不可能に近い。

 

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