べっさんのニュージーランド自転車旅行記

ニュージーランド走ってきました

DAY 27「長い、長い一日」

3/19  DAY 27  from Ocean Beach to Lower Hutt

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バナナご飯

 今日はWellingtonに向かう日だ。6時に起き、たまにはと朝からご飯を炊く。何を思ったか、炊いている途中でスライスしたバナナを放り込み、バナナご飯なるものを作ってみたが、1口目こそ空腹マジックであったものの、2口目からは甘ったるくて仕方なかったので2度とやるものかと心に決めた。

 日の出とともに出発したが、Rimutaka Cycle Trail(リムタカ・サイクル・トレイル)は想像とはかけ離れた過酷な世界だった。出発してすぐ、大きな水たまりの連続に出会う。道幅いっぱいに広がっているので避けようがない。仕方なくザブザブと入っていく。が、これはまだ序の口にすぎない。次に待ち受けていたのは「砂」。つまり砂浜である。Cycle Trailとは名ばかりで、自転車を降りて押して歩かなければならない。その自転車も総重量が60kgもあるものだから、タイヤが深く砂地に食い込んで、まともに前に進めたものではない。数歩進んでは休み、また少し進んでは休みする。

しばらく進むと、今度は、道が…ないではないか。いや、斜面が崩れて道が分断されているのか。斜面と言っても、山の手から崩れてきたがれきが形成している、今にも崩れそうなそれである。かろうじて人ひとりが通れそうなところがあるが、かなりの急斜面のため、重い荷物を載せた自転車を押しながら渡るのは不可能だ。そこで、荷物をすべてばらし、1個ずつ向こう側まで運び往復する。最後に自転車を担いで渡り、再び荷造りをして出発。また、砂地だ。そして次はCreek(川)。ひざ下まで水に浸かりながら、川底の石でバランスを崩さないように踏ん張る。渡った向こう岸はこれまた砂地で、濡れた自転車のホイールは砂まみれになる。

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連続する水たまり

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朝日が照り付ける

 

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少しわかりにくいが道が分断されているのがお分かりだろうか

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場所によっては荷物を解体せざるを得ない

そんな道をどれだけの時間をかけて進んだだろうか。目の前に、家畜が逃げないようにするためのゲートが見えてきた。ところがこのゲート、パニアバッグを乗せた自転車が通るには幅が狭すぎる。さんざんに悪態をつきながら、先ほど行ったばかりの作業を繰り返す。たまたま通りかかったマウンテンバイクのおじいさんが手伝ってくれたのがありがたかった。

これはまずい。本来の予定ではWellingtonに昼までにはついて、あわよくば1時半のフェリーに乗ろうと考えていただけに気持ちが焦る。しかし、目の前に続いているのは悪路、悪路。しかもここで、この先2kmは特に道が悪くなるから気をつけろという内容の標識に出くわした。ちょっと待て。今までの道も十分悪い道だったじゃないか。ここから何が待ち受けているのかと怖くなる。だが、戻ろうにも今まで自分が通り抜けてきた道を思い返すと、引き返す気にはならない。えーい、ままよ、と突き進む。すると、今度は砂地ではなく、ごろた石の道。いや、もはや道と呼べたものではない。石に車輪が引っかかるたびに、全力で押さなければ乗り越えられないほどである。そして、さっきよりも大きなCreek。川のえぐった段差が激しいため、また、荷物を解体しなくてはならない。もうこれで3回目だ。とりあえず渡る前に昼飯を食い、これで最後にしてくれよ、と祈って沢を往復する。そして、もう一度荷物をまとめ直して出発。すると、その願いがかなったのか、ところどころ自転車を押さなければならない場所はあるものの、今までの道と比べるとはるかにましなコンディションになったのだ。

 こうして、悪夢の2km区間は終わり、後は、楽なgravel roadをひた走る。あっという間にCycle Trailの後半を走破し、舗装道路に出た。ああ、このときの喜びはこの旅一番のものではなかろうか。そして、Rimutaka Cycle Trailには2度と行くものかと誓った。(もっとも、マウンテンバイクの軽装備ならこんな苦労はしないのであうが)

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一番の難所だった creek

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道が易しければ楽しいものである

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舗装道路や!

 一度舗装道路に出てからは好調で、あっという間にWainuiomata(ワイヌイオマタ)に着き、そのままLower Hutt(ロウワー・ハット)に向かったのだが、この2つの町の間には山が1つあり、峠道の片側2車線の道路は、交通量が多い道でかなり危険である。路肩に申し訳程度に作られた、とても歩道と呼べたものではない「歩道」を歩く。坂の途中で、Wainuiに住んでいるというおじいさんに追いつき、彼とそのまま頂上まで一緒に登ったのであるが、僕が、なんで歩道をちゃんと整備しないの、と聞くと、過去に車用のトンネルを掘り、歩行者との住み分けを図る計画はあったそうだ。しかし、この計画は地下水が枯れてしまうと反対意見があって、立ち消えになってしまったということだ。彼とはこのほかにもたくさん話をしたが、あまりにもいろんなことを話しすぎて覚えていない。

 頂上に着くと、そこは絶景だった。眼下にWellington Harbour(ウェリントン湾)が広がり、右手にLower Huttの町が、湾の奥には首都Wellingtonが山々をバックに見えている。町の道路を車が走り、海には何艘ものヨットが浮かんでいるのまで鮮明に見ることができる。

 僕が景色に見とれていると、おじいさんはWellingtonの背景の山々のそのさらに向こう側に、周りとは少し色彩の違った感じで見えている2等辺三角形の山を指して、あれがSouth Islandだと言った。このときの僕の気持ちをどう表せばよいだろうか。喜び? 感動とも違う。何か言葉では言い表せないボーっとした感じになって、その山を1分ほど見つめていた。

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Lower Hutt

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Wellington Harbour。 手前の山の尖った部分の奥に South Island がかすかに見える

 彼とは頂上でお別れし、道端の石さえひとりでに転がっていきそうなくらい勾配の激しい坂道を時速60kmで下る。アッという間にふもとまで降りてしまい、来た道を見返すと、たったさっきまでいた場所が、はるか上の方にある。おじいさんは僕が走っているのを見ているだろうか、と思いながらLower Huttの町を走り、途中Pak’n Saveで買い物をして、そのまま海辺の公園で野宿をすることに。

 飯の準備をしていると、怪しい男が近づいてきた。彼はおもむろに、ガールフレンドにメールをしたいから僕のケータイを貸してくれと言うのだ。盗人のにおいがする。そんな質問をされたら誰だって警戒するだろう。電波がないなどと言って適当に嘘をついてごまかすと、彼は他の人を探すと言っていったんはその場を去ったが、僕が飯を食っているとまた戻ってきた。携帯を貸してくれる人はまだ見つからないらしい。どうやら本気で探しているらしい。いや、まだ信用はできない。財布などを狙っているのかもしれないと彼の行動に注意する。彼は、今度は今夜ここに泊るのかと聞いてきた。一瞬返答に困ったが、とりあえずYesと答えた。すると、彼は、それはいいね。ここは10時で車のゲートが閉まるから安全なんだ。もう2か月もここにいるよ、という。え、ここに住んでいるの?そう、彼はホームレスだったのだ。そして、彼が言うには、今日彼女がここのところ寒さがひどいので(彼は半袖だった)上着を届けてくれるらしい。そんなら、彼女のところに一緒に住めばいいじゃないかと言ってみるが、彼は首を振ってNoという。何か複雑な事情があるらしい。

 しばらくして、その彼女がやってきた。彼と2人で車の中で話をしている。僕は水が欲しくなったので、ここら辺にトイレはないかと聞いた。すると、彼は向こうの方にあるけど、かなり遠いから自転車で行った方がいい。荷物は見ててあげるから、という。まだ、彼を100%信用できていない僕は、これで彼が盗み目的かどうかわかると、少し試すことにした。とりあえず、取られたらさすがに困る現金や、ケータイ、パスポートが入ったバッグを持ち、残りの荷物をそのままにして自転車にまたがり、トイレに行く。これは賭けだが、もし盗みが目的なら、今頃荷物をかっさらって車でとんずらしているだろう。ところが5分後戻ってくると、風景は何ひとつ変わっていなかった。彼は悪人ではない、そう確信した瞬間であった。

 夕方、日が暮れると、もう1人酔っぱらったおじいさんが杖を振り回しながら登場した。彼は男のお父さんだという。彼らはここで1つのテントで寝泊まりしているのだ。お父さんは大分お酒が回っていて、言っていることが支離滅裂だったが、僕が寝ようとした頃に、タッパーに入った魚の料理をくれた。(とはいっても、ほぼ食べるところはなかったが)

 そんなこんなでなんだかよくわからない展開になったが、もう一度テントに入り、長い、長い1日が終わった。

   走行距離: 52km 計: 1477km

 

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Rimutaka Cycle Trail(1)

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Rimutaka Cycle Trail(2)

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