DAY 32「せかいを まわる じてんしゃ りょこうしゃ」
3/24 DAY 32 from Acheron to Hanmer Springs
やはり朝早くに目が覚めてしまう。昨日の晩に準備しておいた米を入れた鍋に火をつける。真っ暗な中、ガスの青白い火が光る。外は息が白くなるほど寒い。飯を食ってまた寝袋に包まる。ふと目を覚ますと8時。まだ気温はそれほど高くはないが、空は晴れていて、今日も暑くなりそうである。荷造りを済ませ、キャンプ代を払って出発。川沿いの道の続きである。しかし、10kmも行くと、乾燥した台地が減り、緑の針葉樹や低木の茂みが目立つようになった。この変化は、ここ3日間茶色の色彩に飽き飽きしていた僕にとってうれしい変化だ。遠くに目をやるとSt. James Range(セント・ジェームズ山脈)の山々がそびえたつ。川は水量が増え、鳥も多くなってきた。
Hanmer Springsに行くには、もう1つ峠を越えなければならないが、その行き方には2通りの道がある。1つはJollies Pass(ジョリーズ峠)。Hanmerへの距離は最短だが、その勾配がえげつないらしい。もう1つはJacks Pass(ジャックス峠)。遠回りになるが、比較的なだらかということだ。ここは迷わずJacks Passを選ぶ。たしかに、今までの数々の峠道と比べても、楽な登りである。
峠を越えたとき、ついに生い茂る木々の向こうにHanmerの町が見えた。このときの感動をどう表現したらよいだろうか。多分、言葉では不可能であろう。昼飯を食い、一気に坂を下る。この前転んだことがふと脳裏をかすめるが、そんなことをお構いなしに、地球の重力は僕の自転車をトップスピードに加速させる。この4日分に登った分をチャラにする勢いだ。何度か危ない思いをしたが、うまくバランスをとり、時にドリフトしながら下っていき、ふもとのHanmer Springsの町に着いた。そして、とうとう道が舗装道路に変わったのだ。ああ、絹のような滑らかな走り心地だ。やはり文明は偉大だと思う。
さあ、まずは腹ごしらえだ。Four Squareで食料を買う。我ながら買い物もうまくなったものだ。お金の計算も小銭合わせもできるようになった。このままこの国で生活できるレベルである。
Hanmer Springsはこれまた今までとは異なる雰囲気の町である。山を背景にログハウスが立ち並び、どこかヨーロッパの町を思わせる。そんな町のベンチで、パンにヘーゼルナッツチョコクリームを塗りたくり、パイナップルを丸ごと解体して箸でバクバク食っている僕は明らかに異質である。と、そのとき、Surly(サーリー)のバイクに乗ったおじさんが近づいてきた。今日はどこから来たの、と聞くので、Acheronからと答える。今日はどこに止まるの、と聞かれ、まだ決めていないと答える。すると彼は、じゃあ、私の家に来なさいと言うのだ。シャワーも浴びていいし、ベッドで寝ると良いと。重ね重ね言っておくが、こういう時に遠慮をしてはいけない。2つ返事で彼の家に向かう。Town Centreからそれほど遠くないところにある彼の家は、とても内装が洒落ていて、僕はとても気に入った。冬は寒くなるのだろう。リビングには暖炉がある。とりあえず、何週間ぶりかのシャワーを浴びさせてもらう。ああ、やはり文明は偉大だ。しつこい。
彼はイベントの管理の仕事をしているらしい。そして、僕が一番驚いたのが、彼は自転車旅行者だったことだ。それも世界一周を成し遂げている。彼のタブレットで見せてもらった宿泊地を示した地図を見て僕はびっくりした。世界中に印が付いている。彼は2年半でこれを達成したという。
彼の庭はちょっとした家庭菜園より素晴らしい。そこにはレタス、ブロッコリー、カリフラワー、ズッキーニ、ネギ、メロンなどたくさんの野菜が育っている。彼はそれらをふんだんに使った手料理をふるまってくれた。
おいしいディナーの後は、彼の世界一周の旅行のときの写真を見せてもらう。チベットの標高5000mの山道や、ミャンマーの村の様子など、実に興味深い写真ばかりであった。その後、今後のルートをともに話しあい、良い時間になったので、おやすみなさいと言って、久々のベッドで眠りについた。
走行距離: 28km 計: 1715km
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