べっさんのニュージーランド自転車旅行記

ニュージーランド走ってきました

DAY 29「アワテレ渓谷」

3/21  DAY 29  from Blenheim to Awatere Valley

 South Islandに渡り、一層朝の冷え込みが厳しくなってきたように感じられる。それでも太陽が昇ると気温は一気に上がり活動しやすくなるので、まるで自分が爬虫類か何かになった気分である。3日くらい前から、朝の出発前にラジオ体操の第1と第2をするのにはまっている。1日の運動が自転車をこぐだけ、しかも長距離ともなれば、トランスフォームしそうな勢いで体のバランスが悪くなるのを危惧してのことだったが、このルーティンを挟むだけで、なかなか気持ちいいスタートが切れる。

 昨日行ったCountdownに戻ってまず腕時計を探す。やっぱり見つからない。もうあきらめよう。3、4日分の食料を購入。ビニール袋3つ分の量だが、パニアバッグのいろんなところに頑張って詰込み、出発。実は、昨日の夕方あたりから、旅の間中あれだけ重宝していたGoogle Mapが使えない。通信に制限がかかったか。Christchurchの近郊までは道が単純なので行けそうだがそこから先で迷いそうだ。SH1までマウンテンバイクのおじいちゃんに案内をしてもらう。Kaikoura(カイクラ)まで続くSH1は一時開通したという情報を得ていたが、また通行止めになっているらしい。そのため、SH1はどこぞの田舎道かというぐらいガラガラにすいていた。これは今までSHで何度も怖い思いをしてきた僕にとってはとても助かる。

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日本の梨が売っていた

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買い物中に子供に与える果物が置かれてい る

 南に渡ってから、牧場や牧草地は減り、代わりにワインのブドウ畑が圧倒的に多くなった。しばらく平坦を走ると、少し大きめの丘があり、久しぶりの本格的な登りに足が悲鳴を上げる。汗だくになって登り切って、坂を下ると大きな平野が目の前に開けた。遠くにはNorth Islandでは見かけなかった、標高の高そうな山々が連なっている。

 25kmほど行ったところで、Awatere Valley(アワテレ渓谷)を抜けてHanmer Springs(ハヌマー・スプリングス)に続く合計182kmの道(58)に入る。「この先182kmガソリンスタンドなし」とか、「Road Open/Closed」の標識があるあたり、なかなかの過酷な道と思ってまず間違いない。ここを、今日を含め4日で切り抜けなければならないのだ。気が引き締まる。

 地図を見た様子から勝手に山中の川沿いの道を想像していたのだが実際は少し違った。山は確かにあるが、その間は大きく離れており、平野のようになっている。そしてその平野部も川の流れによってさらに削られて、グランドキャニオンのような崖を形成しているのだ。道はその崖の上を行ったかと思えば、急に下って谷底の川沿いを走ったりとアップダウンがずいぶん忙しい。崖の上はブドウ畑になっていて、鳥よけのためか時折、模擬の銃声音が聞こえる。かなりびっくりする音量である。

 道は最初の15km程は舗装であったが、そこからgravel roadに変わった。かと思えばまた舗装に戻ったりする。どうやら勾配のきついところだけに最小限の道路舗装を行っているようだ。途中で昼飯を食ったが、sandflyの猛攻を久しぶりに受けた。南のsandflyは大きさが倍近くあり、しかもかまれるとかなりかゆい。これは厄介だ。

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一面に広がるブドウ畑

 この先3日間はいつもと違い、あの町までといったような具体的な目的地がない。1日50kmこいだら適当な場所を見つけて寝る。牧場のそばのユーカリの木の下に自転車を止め、川で水浴びをする。それは川というよりもむしろ沢と言うべきもので、水は氷のように冷たく、全身浸かることなど到底できたものではない。ひざ下まで頑張って入り、上半身に恐る恐る水をかけるのだ。

 そして、再びsandflyの猛攻を受けながらなんとか飯を作り、テント内に避難して食う。これはなかなかストレスフルだ。だが、Christchurchにたどり着くにはこの4日間を乗り切らなければならない。明日も頑張ろうと自分に言い聞かせ、テントに入って寝た。

   走行距離: 55km 計: 1580km

 

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脚注

(58)アワテレ渓谷:この先の地はMolesworth Station(モールスワース・ステーション)と呼ばれ、その昔、この地で農業を営むためにに開拓された歴史がある。

 

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DAY 28「南へ」

3/20  DAY 28  from Lower Hutt to Blenheim

 今日は異例の早起きだ。5時に起床し、飯を食って急いで荷物をまとめにかかる。フェリー(55)が8時に出るのだが、その45分前にはチェックインしなければならないのだ。Wellingtonまではあと10kmはある。途中にmotor wayがあるし、フェリーのターミナルまでの道もややこしそうだ。余裕をもって6時に出発する。

 Wellingtonまでのmotor wayは隣に自転車道が整備されていたので、この問題は解決した。自転車道は道路と、電車の線路に挟まれていて、アルミニウムのボディにLEDのヘッドライトを光らせた3両編成の電車が、時折カタンカタンと音を響かせて通り過ぎる。貨物列車の機関車がたてる重厚な音とは違う軽快な音に、日本の鉄道を思い出し、ふと郷愁の念がこみ上げる。まあ、そうはいってもこの旅も残り1週間なのであるが。

 WellingtonのCity Centreの手前で少し迷ったが、7時前にBlue Bridge Ferry(ブルーブリッジ・フェリー)の建物に何とかたどり着いた。ロビーには、修学旅行だろうか、中高生くらいの女の子が大勢いて、ざわざわとしている。料金は63ドルだった。少し高いが、泳いで渡るわけにもいかないので、まあ仕方のない出費である。

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フェリーの待合室にて

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Wellington

 先に車が入った後に続いてフェリーに乗り込む。思えばフェリーに乗るなど何年ぶりのことであろうか。まるで船全体が1つの建物のようにそびえたち、これが動くとは今のところ想像しがたい。中にはラウンジ、サイレントルーム、ムービールームなどがあり、ゆったりとくつろげそうである。とりあえず、デッキに出て、Wellingtonの町を目に焼き付けておく。時間があればCity Centreにも行きたかったなあなどと思っているうちに出航の時刻である。大きな船はその見かけとは裏腹に、水の上をすべるように動き出す。Wellingtonの町が遠ざかり、外洋に出るにつれて風が冷たくなってきたので中に戻る。おっと、ラウンジは人でいっぱいだ。ラウンジの座り心地のよさそうなソファをひそかに狙っていたのだが。仕方なくムービールームに移動。今日は何も上映しないようで、人もまばらで、座席にはリクライニングがある。座るとなかなか居心地が良く、外海に出た船のゆったりとした揺れもあって、いつしか眠りに落ちていた。かなりの時間眠っていたようで、目を覚まし、ふと窓の外に目をやると、船は複雑に入り組んだ入江をゆっくりと進んでいた。じきにPicton(ピクトン)に着く様子である。

 船を降りると、そこは南島の玄関口、Pictonの町である。Pictonは港町で、フェリーが発着するふ頭のすぐ隣にある海辺の公園はまるで絵に描いたように美しい。そういえばまだ昼飯を食っていない。今日は南に渡った特別な日ということで、ずっと食べる機会を逃していたFish & Chips(フィッシュ・アンド・チップス)(56)を食べることにした。この町一番とうたうお店で注文し、アーケードのベンチで食す。いつも朝、昼、晩とほとんど同じものを食べていただけに、うまいうまいとものすごい勢いで平らげてしまった。

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Picton

 さて、腹ごしらえも済んだので、今日の目的地Blenheim(ブレナム)までSH1(ステイト・ハイウエイ・1)(57)を飛ばす。道は最初の1kmほどが登りだったが、後は平坦で楽な道のりであった。町に入る手前の川で体を洗った後(水はかなり冷たかった)、Blenheimの町に入る。Blenheimはきれいな町で、白い立派な時計塔が時間を知らせてくれる。Countdownで食料を調達して寝場所を探す。町の真ん中を流れる小川のほとりに決めた。小川は、それほど川幅はそれほどないが、水量が豊富で、水は透き通り、川底に緑色の水草が揺れているのが、美しい。川辺のウォーキングロードでは、すれ違う皆が挨拶をかわし、良い雰囲気である。と、ここまではよかったのだが、飯を食う準備をするときに、ご飯を炊く時間を見ようと腕時計を見ようと左手をみると、なんと時計がない。さては先ほどの川辺で外した時に置き忘れてきたか。いや、あの時はつけたはずだ。Countdownの前で日焼け止めを塗った時か。いや、違う。どこで失くしたか、はっきり覚えていない。もし川辺だとすると、10kmも戻らなければならない。このさきの行程に余裕はないので、戻るのはほぼ不可能である。仕方ない、明日Countdownの前だけでも見てみよう。決して高くはないが、思い入れのある時計であるだけに、僕のテンションはかなり下がっている。

 時計のことはいったん忘れることにして、明日から4日間のgravel roadに備えて、しっかり元気を蓄え、テントに入って寝た。

   走行距離: 49km 計: 1526km

 

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Blenheim の時計台

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町の中を流れる川

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入江を行く

脚注

(55)フェリー:North IslandとSouth Islandを隔てるCook Strait(クック海峡)を横断するフェリーはBlue Bridge Ferry(ブルーブリッジフェリー)とInterislander(インターアイランダー)の2社がある。どちらもWellingtonとPictonを結び、料金もさほどの差はない。

 

(56)Fish & Chips:NZは英国系の開拓地ということもあってその文化が引き継がれているため、Fish & Chipsの店がよく見受けられる。後、意外であるのが、Sushi Bar(スシ・バー)と呼ばれる寿司レストランが多いことである。

 

(57)State Highway:いわば国道である。場所にもよるが、特に主要な町を結ぶSHは交通量が多く、あまり自転車通行には向かない。しかし、ほかに道がなく、通らざるを得ないことも多い。

 

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DAY 27「長い、長い一日」

3/19  DAY 27  from Ocean Beach to Lower Hutt

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バナナご飯

 今日はWellingtonに向かう日だ。6時に起き、たまにはと朝からご飯を炊く。何を思ったか、炊いている途中でスライスしたバナナを放り込み、バナナご飯なるものを作ってみたが、1口目こそ空腹マジックであったものの、2口目からは甘ったるくて仕方なかったので2度とやるものかと心に決めた。

 日の出とともに出発したが、Rimutaka Cycle Trail(リムタカ・サイクル・トレイル)は想像とはかけ離れた過酷な世界だった。出発してすぐ、大きな水たまりの連続に出会う。道幅いっぱいに広がっているので避けようがない。仕方なくザブザブと入っていく。が、これはまだ序の口にすぎない。次に待ち受けていたのは「砂」。つまり砂浜である。Cycle Trailとは名ばかりで、自転車を降りて押して歩かなければならない。その自転車も総重量が60kgもあるものだから、タイヤが深く砂地に食い込んで、まともに前に進めたものではない。数歩進んでは休み、また少し進んでは休みする。

しばらく進むと、今度は、道が…ないではないか。いや、斜面が崩れて道が分断されているのか。斜面と言っても、山の手から崩れてきたがれきが形成している、今にも崩れそうなそれである。かろうじて人ひとりが通れそうなところがあるが、かなりの急斜面のため、重い荷物を載せた自転車を押しながら渡るのは不可能だ。そこで、荷物をすべてばらし、1個ずつ向こう側まで運び往復する。最後に自転車を担いで渡り、再び荷造りをして出発。また、砂地だ。そして次はCreek(川)。ひざ下まで水に浸かりながら、川底の石でバランスを崩さないように踏ん張る。渡った向こう岸はこれまた砂地で、濡れた自転車のホイールは砂まみれになる。

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連続する水たまり

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朝日が照り付ける

 

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少しわかりにくいが道が分断されているのがお分かりだろうか

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場所によっては荷物を解体せざるを得ない

そんな道をどれだけの時間をかけて進んだだろうか。目の前に、家畜が逃げないようにするためのゲートが見えてきた。ところがこのゲート、パニアバッグを乗せた自転車が通るには幅が狭すぎる。さんざんに悪態をつきながら、先ほど行ったばかりの作業を繰り返す。たまたま通りかかったマウンテンバイクのおじいさんが手伝ってくれたのがありがたかった。

これはまずい。本来の予定ではWellingtonに昼までにはついて、あわよくば1時半のフェリーに乗ろうと考えていただけに気持ちが焦る。しかし、目の前に続いているのは悪路、悪路。しかもここで、この先2kmは特に道が悪くなるから気をつけろという内容の標識に出くわした。ちょっと待て。今までの道も十分悪い道だったじゃないか。ここから何が待ち受けているのかと怖くなる。だが、戻ろうにも今まで自分が通り抜けてきた道を思い返すと、引き返す気にはならない。えーい、ままよ、と突き進む。すると、今度は砂地ではなく、ごろた石の道。いや、もはや道と呼べたものではない。石に車輪が引っかかるたびに、全力で押さなければ乗り越えられないほどである。そして、さっきよりも大きなCreek。川のえぐった段差が激しいため、また、荷物を解体しなくてはならない。もうこれで3回目だ。とりあえず渡る前に昼飯を食い、これで最後にしてくれよ、と祈って沢を往復する。そして、もう一度荷物をまとめ直して出発。すると、その願いがかなったのか、ところどころ自転車を押さなければならない場所はあるものの、今までの道と比べるとはるかにましなコンディションになったのだ。

 こうして、悪夢の2km区間は終わり、後は、楽なgravel roadをひた走る。あっという間にCycle Trailの後半を走破し、舗装道路に出た。ああ、このときの喜びはこの旅一番のものではなかろうか。そして、Rimutaka Cycle Trailには2度と行くものかと誓った。(もっとも、マウンテンバイクの軽装備ならこんな苦労はしないのであうが)

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一番の難所だった creek

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道が易しければ楽しいものである

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舗装道路や!

 一度舗装道路に出てからは好調で、あっという間にWainuiomata(ワイヌイオマタ)に着き、そのままLower Hutt(ロウワー・ハット)に向かったのだが、この2つの町の間には山が1つあり、峠道の片側2車線の道路は、交通量が多い道でかなり危険である。路肩に申し訳程度に作られた、とても歩道と呼べたものではない「歩道」を歩く。坂の途中で、Wainuiに住んでいるというおじいさんに追いつき、彼とそのまま頂上まで一緒に登ったのであるが、僕が、なんで歩道をちゃんと整備しないの、と聞くと、過去に車用のトンネルを掘り、歩行者との住み分けを図る計画はあったそうだ。しかし、この計画は地下水が枯れてしまうと反対意見があって、立ち消えになってしまったということだ。彼とはこのほかにもたくさん話をしたが、あまりにもいろんなことを話しすぎて覚えていない。

 頂上に着くと、そこは絶景だった。眼下にWellington Harbour(ウェリントン湾)が広がり、右手にLower Huttの町が、湾の奥には首都Wellingtonが山々をバックに見えている。町の道路を車が走り、海には何艘ものヨットが浮かんでいるのまで鮮明に見ることができる。

 僕が景色に見とれていると、おじいさんはWellingtonの背景の山々のそのさらに向こう側に、周りとは少し色彩の違った感じで見えている2等辺三角形の山を指して、あれがSouth Islandだと言った。このときの僕の気持ちをどう表せばよいだろうか。喜び? 感動とも違う。何か言葉では言い表せないボーっとした感じになって、その山を1分ほど見つめていた。

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Lower Hutt

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Wellington Harbour。 手前の山の尖った部分の奥に South Island がかすかに見える

 彼とは頂上でお別れし、道端の石さえひとりでに転がっていきそうなくらい勾配の激しい坂道を時速60kmで下る。アッという間にふもとまで降りてしまい、来た道を見返すと、たったさっきまでいた場所が、はるか上の方にある。おじいさんは僕が走っているのを見ているだろうか、と思いながらLower Huttの町を走り、途中Pak’n Saveで買い物をして、そのまま海辺の公園で野宿をすることに。

 飯の準備をしていると、怪しい男が近づいてきた。彼はおもむろに、ガールフレンドにメールをしたいから僕のケータイを貸してくれと言うのだ。盗人のにおいがする。そんな質問をされたら誰だって警戒するだろう。電波がないなどと言って適当に嘘をついてごまかすと、彼は他の人を探すと言っていったんはその場を去ったが、僕が飯を食っているとまた戻ってきた。携帯を貸してくれる人はまだ見つからないらしい。どうやら本気で探しているらしい。いや、まだ信用はできない。財布などを狙っているのかもしれないと彼の行動に注意する。彼は、今度は今夜ここに泊るのかと聞いてきた。一瞬返答に困ったが、とりあえずYesと答えた。すると、彼は、それはいいね。ここは10時で車のゲートが閉まるから安全なんだ。もう2か月もここにいるよ、という。え、ここに住んでいるの?そう、彼はホームレスだったのだ。そして、彼が言うには、今日彼女がここのところ寒さがひどいので(彼は半袖だった)上着を届けてくれるらしい。そんなら、彼女のところに一緒に住めばいいじゃないかと言ってみるが、彼は首を振ってNoという。何か複雑な事情があるらしい。

 しばらくして、その彼女がやってきた。彼と2人で車の中で話をしている。僕は水が欲しくなったので、ここら辺にトイレはないかと聞いた。すると、彼は向こうの方にあるけど、かなり遠いから自転車で行った方がいい。荷物は見ててあげるから、という。まだ、彼を100%信用できていない僕は、これで彼が盗み目的かどうかわかると、少し試すことにした。とりあえず、取られたらさすがに困る現金や、ケータイ、パスポートが入ったバッグを持ち、残りの荷物をそのままにして自転車にまたがり、トイレに行く。これは賭けだが、もし盗みが目的なら、今頃荷物をかっさらって車でとんずらしているだろう。ところが5分後戻ってくると、風景は何ひとつ変わっていなかった。彼は悪人ではない、そう確信した瞬間であった。

 夕方、日が暮れると、もう1人酔っぱらったおじいさんが杖を振り回しながら登場した。彼は男のお父さんだという。彼らはここで1つのテントで寝泊まりしているのだ。お父さんは大分お酒が回っていて、言っていることが支離滅裂だったが、僕が寝ようとした頃に、タッパーに入った魚の料理をくれた。(とはいっても、ほぼ食べるところはなかったが)

 そんなこんなでなんだかよくわからない展開になったが、もう一度テントに入り、長い、長い1日が終わった。

   走行距離: 52km 計: 1477km

 

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Rimutaka Cycle Trail(1)

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Rimutaka Cycle Trail(2)

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DAY 26「オイルサーディン事件」

3/18  DAY 26  from Featherstone to Ocean Beach

 6時に起床し、朝飯をテントの中で食う。朝からオイルサーディンの油を寝袋の上に大量にこぼしてしまうという悲惨な事件が起きたが、出発する。昨日の晩は比較的暖かく、朝もそれほど寒くなかったのだが、日が昇るにつれて逆に寒くなってきている。雨でも降るのだろうか。

 いったんFeatherstonの町に戻り、食料を調達。そして、図書館のWi-FiでSouth Islandに渡るフェリーの時間を確認する。このフェリーの時間もまた微妙で、日中は8時と1時半発の2本しかない。できれば8時のやつに乗りたいが、朝、泊っているところから準備をして乗り込むことを考えると、遅刻する恐れがある。逆に1時半のやつだと、到着が5時になるので、そこからテントを張る場所を探すのが大変だろう。悩むところである。まあ、Wellington(ウェリントン)に着いてから考えよう。

 買い物を終え、再び出発する。道は、はじめの10km程は快適だったのが、Lake Wairarapaのほとりの平野部に入った途端、周りの木々がざわめくほどの強烈な逆風にさらされ、まともに進むことができない。そんな道を30km、休み休み行く。すると、突然舗装が途切れ、道はgravel road(砂利道)へと切り替わった。周りの景色も、少ししけ気味の海とかなりの傾斜を持った山となり、低く垂れこめた雲がその山頂を覆っている。gravel roadは時折、浅い川を横切るのだが、橋がなく、冷たい水の中をバシャバシャと自転車ごと渡るしかない。途中ですれ違ったマウンテンバイクのおばちゃんが言うには、この先にひざ下まで浸かるような深さの川もあるらしい。

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木々が横方向に生えているのは、常に同じ向きから風を受けているからだと地理の授業で聞いたことがある

 そんな今までとは雰囲気の違う道を、ある種の新鮮さを感じながら進むうちに、今日の宿泊予定地であるCorner Creek Campsite(コーナー・クリーク・キャンプサイト)に着いた。トイレと流し台があり、木々に囲まれたいいところだ。料金は6ドル(54)だったのだが、あいにく財布には細かいお金がなく、10ドル紙幣で払っておいた。次泊るときは2ドル払いさえすればよいだろう。(「次」があるのかどうか疑問だが)

 結局、危惧していた雨にも降られることなく、少し寒い他はまあまあな一日であった。暇つぶしに誰もいない浜をほっつき歩きながら大声で歌を歌う。まったく、歌ばかりうまくなっていく。North Islandは予定では後1日。明日にはWellingtonに向かう。

   走行距離: 54km 計: 1425km

 

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どこか世界の最果てにでも来てしまったかのような風景である

脚注

(54)宿泊登録の方法:ここのような無人のキャンプ場では、宿泊の登録を自ら行わなければならない。具体的な方法は、サイト内にenvelope(封筒)とポストが設置されている場所があり、封筒の中の登録フォームと許可証に必要事項を記入した後、料金を同封しポストに投函する。許可証はテントや、車などの見えやすい位置に置いておくといった流れである。

 

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DAY 25「休養日」

3/17  DAY 25  from Martinborough to Featherston

 昨日購入したヨガマットはかなり寝心地が良かった。今日は時間調整プラス休養日ということで、隣町のFeatherstonまでの20kmの道のりである。したがって、日記も少しライトにする。最近、朝飯を食った後に二度寝をするという何とも怠惰な生活習慣が癖になり始めていよいよやばい。

 10時に出発。ものの数十分でFeatherstonに到着。思ったよりも小さな町で、ファストフード店もない。少し洗濯物が溜まっていたので、町のはずれのMotelで洗濯をし、その間に飯を食ったり、町を散策していた。

 午後がまるまる暇なので、Library(図書館)に行き、「おおかみこどもの雨と雪」の漫画本を読む。一度映画を見たことがあるので内容は知っていたが、最後まで読破してしまった。他にも雑誌などを読みあさり、気が付くと閉館時間の5時。図書館のおばさんに教えてもらったLake Wairarapa(ワイララパ湖)のほとりのfree camp groundに移動し、飯を食って寝た。

   走行距離: 29km 計: 1371km

 

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Lake Wairarapa

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DAY 24「服を買いました」

3/16  DAY 24  from Masterton to Martinborough

 今日の天気予報は晴れにも関わらず、朝の最低気温が8℃とすごく寒い。朝起きると冷気がテントのベンチレーションから侵入してくるのが感じられる。この調子ではSouth Islandの標高の高いところで耐えられそうにもない。やはり、マットと防寒着は購入しておいた方がよさそうだ。

ということで今日はじめはMastertonで買い物である。まずは食料。Countdownで20ドルほど使う。米やラーメンを購入するときはどうしても高くなってしまう。次に、ガスボンベが切れそうなので補給するためにアウトドアショップに入る。中は、ハンティングの売り場が大部分を占めていて、猟銃やカモフラージュのハンティングウエアが置いてある。ボンベは普通の店よりはかなり高価だが、5ドルのものを2本購入した。そして服だ。Cotton On(コットン・オン)でトレーナーを買う。下もほしいがとりあえずこれでいいだろう。最後にマットを探す。The Warehouseに入って梱包材を探すが、ない。んなわけあるか、とフロアを2周するが見つからない。仕方がないので、代わりに5ドルのヨガマットを買うことにした。すると、レジに行く途中で、10ドルのスウェットのズボンが山積みにされているのを発見し、迷わず手に取る。服も上下揃い、これでChristchurchまでの道も安泰だ。

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期間限定販売のスイカ味のメントス。この後開封するときに地面にぶちまけた

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トレーナーとスウェットを買った

買い物を終えた頃には昼過ぎになっていて、少し腹がすいてきた。そろそろ「ラーメンwith卵×2 andキャベツの千切り」

にも飽きてきたので、Burger Kingに入る。Cheese Burgerが2つで3ドルという俺得のキャンペーンをやっていたので、それに飛びつき、0.70ドルのソフトクリーム(53)をデザートにした。

腹を満たしたところで、出発。後はFeatherston(フェザーストン)までの直線的な道のり…のはずだったが、途中のCarterton(カータートン)に入った時、Stonehenge Aotearoa(ストーンヘンジアオテアロア)の標識を見つけてしまい、ちょっと寄り道をすることに。10kmほど遠くなるが好奇心の方が勝った。Stonehengeというのは、約5000年前の古代の人によって作られた石を円形に並べた建造物で、皆も一度はあの神秘的な雰囲気の漂う写真を見たことがあるだろう。僕もあの絵を想像しながら、Stonehengeまでの道を進んでいった。

ところが、着いたのは牧場の中にある私有地のような場所である。小道を入ってみると、見学料として10ドル払わなければならないらしい。10ドルかぁ。肉が2回食えるなぁ。店番のおばさんに、あきらめます、というと、お土産などを売っているショップの中でしばらく休憩してから行きなさいと言われたので、しばしのんびりとしていく。

展示物を見ていると、どうやら本場のStonehengeはイギリスにあり、ここのStonehenge Aotearoaは2005年に作られたコンクリート製のものであるらしい。作った人には失礼だが、10ドル払わなくてよかったなどと思ってしまった。

さて、少し脇道にそれたので、Featherstonには今日中に行くことはできない。少し南にある17km先のMartinborough(マーティンバラ)に泊ることにきめ、そこまで頑張る。道中は晴天で、これはこれで暑い。朝は寒くて震えていたのに忙しいものだ。5時ごろに町に入り、町の中心にある四角形の広場が特徴的なLittle Square(リトル・スクエア)の近くの公園で飯を食い、寝ることにする。

   走行距離: 55km 計: 1342km

 

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Stonehenge Aotearoa の入り口。一瞬入るのをためらうほど私有地感が漂っている

脚注

(53)ソフトクリームの英語:ソフトクリームは英語ではsoft serve(ソフト・サーブ)と言うので、注文のときは間違えないように。

 

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DAY 23「20 minutes noodle」

3/15  DAY 23  from Pongaroa to Masterton

 とうとう地面からの冷気が伝わってくるようになった。これはさすがにまずいのでMasterton(マスタートン)に着いたら梱包用のマット(52)を買うことにしよう。今日も雨が降っている。空は晴れという概念を失ってしまったようだ。さらに今日は冷たい風が吹いていてよくない。

9時に出発。昨日General storeのおばちゃんがMastertonの手前のIhuraua(イフラウア)には店があると教えてくれたので、そこまで行く予定だ。今日の道も何ら変わりはない景色。まあ、走りやすいので不満はない。時折、開けたところに出ると逆風にやられる。

 3、40kmほどこいで、飯にしようとクッカーを取り出しコンロに火をつけようとすると、強風の影響で圧電着火が効かない。ならばとマッチを取り出して火をつけようとするが、湿っているのか全くつく気配がない。予備のマッチがどこかにあるはずだったが、荷物を漁っても見つからない。さて困った。飯が食えないぞ。風の弱まるのを待つかどうか、などと考えながら、ふと何の気なしにもう一度圧電着火を試してみると、今度は火がついた。しかし、それもつかの間、次はボンベがガス切れ。新しいやつを荷物の底から引っ張り出し、またまた苦労して火をつける。そこからも、風のせいでお湯が沸くのに時間がかかり、2 minutes noodleは20 minutes noodleとなってしまった。

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自転車乗りとしては自転車と道路を共有するという認識をもっと日本でも広めたいものである

 気を取り直して再出発。雨はやんだが、風が強いのと太陽が隠れているのとでとても寒い。そんな中を無心でこぎ、Ihurauaに到着…何もない。なんで。まさか、聞き間違えたか。いや、そんなはずはない。MastertonまでGoogle Mapには他の地名は載っていなかった。なので、この先はMastertonしかないし、音的に他に間違う地名があるはずがない。しかし、何度見返しても、そこはIhurauaだし、周りにはただ農場があるのみである。道端に寝るのも嫌なので、Masterton行きを決める。あと30kmほどあるが、僕の消極的な感情としては、体力的な問題よりも、むしろ今日でこの走りやすい道とお別れしなければならないということに名残惜しさのようなものを感じていた。そんなことを思いつつ走るうちに30kmはあっという間に過ぎ、Mastertonに到着。町の入り口にHenley Lake Park(ヘンリー・レイク・パーク)という、大きな池のある公園を見つけたので、そこを宿にする。

早々に飯を食って寝た。

   走行距離: 88km  計: 1287km

 

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両側に松の巨木がそびえる坂道

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Henley Lake Park には水鳥がたくさん

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夕暮れ

脚注

(52)梱包用のマット:地面からの冷気を遮断する手段として機能面でも経済面でも最強である。

 

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